伝説なんて、怖くない


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新しい設定での何か別なシリーズが始まったわけではありませんで、
お久し振り(でもないか)の頼もしい女傑の皆様は、やはり相変わらずであるらしく。
事情聴取という名目での、実質“捜査報告”にと
保護されるという格好で連れられてった軍警捜査課の中の取調室にて、
捜査対象組織の本拠地にあたる××邸で過ごした数日に関して
一通りを異能特務課の担当官へ報告し、
証拠となろう情報が詰まったフラッシュメモリを提出しての、さて。

 「あ〜あ、お嬢様ぶりこで1週間もいるなんて、肩凝ったなぁ。」

それは朗らかに所轄署を出てのち、新緑あふるる街路を歩みつつ、
いかにも疲れたと言いたげに間延びした声を放つと、
隣にいた敦嬢の細い肩へこてんと頭を乗っけた太宰嬢。
擬態のためにと まとっていた、いかにも楚々とした令嬢風の
膝どころか脛まで隠れる丈のワンピースもあっという間に着替えておいでで。
日頃の装いである砂色の外套に濃色の内衣、
男物のそれのよなスキッパ―タイプのシャツにループタイと、
ボトムはセミタイトのスカートへ黒のストッキングという
色気軽減のためのマニッシュ仕様なのだか、
バサバサと嵩張るところは いっそ仙人でも目指したい仕様なのだか、
相変わらずに判じ物みたいないでたちをしておいで。

「ねえねえ敦く〜ん、此れから居酒屋で打ち上げと行かないかい?
 ビール飲みたいし軟骨の唐揚げ食べたい。勿論、国木田くんのツケで。」

せっかくの美人が台無しな 間延びしきりという態度で、
年下の、しかも部下へと駄々をこねるのもいつものことで。

「ダメですよ。せめてファミレスでのお食事で手を打ってくださいな。」

まだ明るいのに居酒屋なんて入れませんと、
そりゃあ可愛らしい笑顔でざっくり斬って捨てる辺りは、
そろそろこの面倒くさい上司に慣れて来つつあっての頼もしい応対。
入社したばかりの頃なら、まだまだ及び腰なまま振り回されるばかりだったろに、
数々の修羅場をくぐり抜けて多少は自信もついたのと、
あの、問題人材だらけの探偵社に居るうちに
多少なりとも危機回避能力が磨かれた成果といえ。
教育係さんへのこの態度も、
この上司様がただ年上だってだけじゃあない
本当に底が知れぬほど物凄い人なのだと肌身で知ったその上で、
甘やかしていてはキリがないぞ、ビシッと言ってやれと、
国木田のみならず、中也からまで言われ続けた結果の代物。
ええ〜?と膨れた真似をしつつ、こっそり苦笑する太宰嬢であること、
敦のみならず、中也も芥川までもが朗らかに微笑って受け止めている。

 その道 ン十年というベテランでも緊張で胃がよじれたろう級の潜入捜査にて、
 ああまでの鬼対応が出来る身でありながら、

ごくごく普通の妙齢の女性らのグループのような
屈託のないじゃれ合いも振る舞いもこなせる、
心置きないままに居られるだけの、
互いへの信頼と理解を…安寧という名の非干渉把握を持ち合う彼女らで。

 “ほんっとにめんどくさい奴だよ、この女ったら。”

寂しがり屋なくせに、甘え方を知らないだけなくせに、
なのになのに 踏み込まれたくなくてと、
煙たがられるようにと強引さで押して見たり自殺に勤しんで手を焼かせたり。
組織のためが最優先で、それで泣く者が出ぬよう、
恨まれ役になる覚悟はいつだってあるよ、だって幹部だしと
小さな背中を益荒男ばりの気丈さで伸ばしてたり。
ホントは辛いけどそれが貴女の望みならと、涙は止まらずとも見送れる、
まだまだ幼い虎の子の、丸くなる肩を自分の心情見るようだと撫でてやれたりする、
それぞれがそれぞれなりに器の大きな彼女らでもあって。

 「じゃあじゃあ、間を取って、
  いつもの“うずまき”で パフェで乾杯と行こうじゃないか♪」

 「何と何の間だ。」
 「あ、でもボク、それ賛成vv」
 「お供します。」

むむうと眉を寄せる中也嬢の肩へ両手を置いて
ねえねえいいでしょう?と甘える愛し子や、
口許を隠すよに指先添えつつ、やはり“賛成”な部下のお声には我を張れず。

 「しょうがねぇな、首領への報告入れてからだぞ?」

吐息つきつつ、愛車のキーを取り出して、
探偵社組も送ってくの前提で そんな返事した箱入り幹部嬢だったりするのである。

 「……ちょっと待て、こっちでもそれ言うか

あっはっはっはvv



     ◇◇


かつて裏社会最強と呼ばれた“双黒”コンビと、
そんな二人を継ぐものとされている 若い世代の少女ら二人と。
新旧双黒の4人組、されど本来の所属はバラバラで。
内務省異能特務課との縁も深く、
軍警でも手古摺るような難事件や荒事へ頼りにされる
薄暮の武装集団こと武装探偵社に属す太宰治と中島敦。
密輸品や武器の売買、密入国の手引きに要人の誘拐、
裏切り者への処刑や敵対組織の鏖殺まで様々な犯罪を手掛け、
魔都ヨコハマの裏社会の雄として、彼らなりの規律を司る、
ポートマフィアに属す中原中也と芥川龍之介。
いづれもなかなかに勇ましい 男のような名前だが、
揃いも揃って花のように美々しい女性たちで。
属す組織の方針は相容れ合う筈のない、紛うことなく敵対者同士の筈だのに、
各々でそれぞれなりの関わり合いが交錯する間柄の4人でもあるせいか、
それは厄介な性質だというのに、
日乃本ではまだ公認とはされていない “異能”関わりな案件への共闘に、
良くも悪くも呼吸の合う彼女らが駆り出されるのも、今では珍しくはない流れ。

 「いい迷惑だがな。」
 「まったくだよ、こっちにだって都合というものがある。」

互いに険悪な貌となり、鋭い一瞥投げ合う 誰かと誰かだったれど。
斜に構える先達二人の空気が届かなかったか、

 「でもでも、お仕事という格好で堂々とお顔見られるのは嬉しいなvv」

 「………う"。//////////」 × 2

はにゃんと蕩けそうな笑み見せて、
お隣に座った素敵帽子の似合う姐様へ“うふふー”と無邪気に笑う子がいるものだから。
尖ってた空気も一瞬で凍りつき、そのまま氷解してしまったほどの
常春頭の威力の凄まじさよ。

  “何でそのような赤面ものな本音を 臆面もなく言えるのだ、こやつ。”

羨ましいのか呆れたか、もう一人の後輩さんの心情も吐露されての、
ご当人らの思うところはともかく。(んんん"っ)
いろんな意味から目立ちすぎる風貌の顔ぶれでもあるがため、
今回、共闘で対処した案件に関しても、こういった潜入には向かないかと思われていたのだが、
存外怪しまれることもないままに行動が出来、
流石に出しっぱなしではなかったが、それでも金庫や何やの鍵やパスを紐解く余裕は十分ある中で、
情報集めも裏取りも随分とスムーズに片づけられもして。

「それほど古顔の組織じゃあなかったし、
 対外的な取引だ何だも、決まった相手とばかりこなしてた輩だったからねぇ。」

ポートマフィアには居ない顔ぶれが
ほんわかムードを振りまいてたこともカモフラージュになって、
警戒を緩め、あの最終局面での困惑と混乱の元となっていたのだろうと。
そうと語った異能特務課の担当の人ではあったれど、

「? でも太宰さんって元は。」

いくら経歴を洗ったといったって、
本人がこれほどの存在感もつ美姫だというに何で誰も気づかぬものか、
裏社会の情報ってそうまで日進月歩なの?と、小首を傾げる虎の子へ、

「敦、まずその引用は微妙に間違ってる。」

ご丁寧に間違いを正すところは、国木田さんに似てるなぁと、
敦と太宰の双方それぞれに思わせつつ、
パフェ用の細長いスプーンを振り振り 中也嬢が言い足したのは、

「こやつほど悪魔のような小娘はいなかったってことだ。」
「???」

おおう、また急に曖昧表現になったと またぞろ目が点になっておれば、
今度は芥川が口を開いて、

「太宰さんが関わった案件は、
 姿を見せて執行されたものほど鏖殺ものが多かったのでな。」
「??? はい?」

関わった総ての人間が、死んでいるか、気が触れて人の目の前へ出て来れなくなっているか。
幼い少女の身で潜入し、その甘やかな見栄えと巧妙な蠱惑したたる所作とで、
並み居る海千山千の大人らを男女の別なく籠絡し、
仕上げに“私を所望ならトップに立って”などとそそのかし、
口八丁ひとつで組織を同士撃ちという形で内側から壊滅に追い込める、
それは恐ろしい少女だったそうで。

「なので、生存する目撃者は少なかったらしいのだ。」
「戦闘現場へ参謀として投じられても、表立って暴れてたのは中也だったしねぇ。」

ご当人がそれはあっけらかんと言葉を添えもして。
という訳で、これほど際立った容姿をなさっていても、
元マフィアだという方向で顔が差すということは少なく、
よほどに格が上の人物でなきゃあ 気づく者とて居なかろと。
涼しいお顔で説を〆めた芥川嬢だったりし。
褒めているのか居ないのか、
いやいやこの子が言うからには褒めているに違いなく。
ただし、言い方は要勉強だなと。
抹茶とストロベリ、お互いのパフェを1匙ずつ “あ〜ん”し合う可憐な後輩二人のうちの、
キャリアはあっても世間知らずな黒の少女へ、先達二人が揃って苦笑したのだった。




to be continued.(18.06.15.〜)




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 *女の子陣営だってことをついつい忘れそうになるのが困りものです。
  前提の補足はこのくらいにして、次から本題。
  あああ太宰さんのBDにもろに食い込むじゃないですか。